Monthly Archives: December 2011

イギリスにおけるレイプレイ事件とその社会的背景について [2009年6月初出]

日本のアダルトゲームの規制強化の引き金に大きな役割を果たした英国労働党のヴァズ議員ですが、その後2011年のロンドン暴動においてツイッター、フェイスブック、ブラックベリーなどSNSが大きな役割を果たしたとして規制の必要性をほのめかしていました。 http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-14931010 http://www.mediabistro.com/alltwitter/twitter-facebook-blackberry-skynet_b12856 今度は暴力ゲームは子供の脳に永続的な影響を与えるかもしれないから、親がクリスマス・プレゼントに暴力ゲームを子に買い与えるこの季節こそ、徹底した議論と検証が必要だと言い出してきました。 (日本語)http://www.gpara.com/kaigainews/eanda/2011120801/ http://www.gamepolitics.com/2011/12/02/uk-mp-keith-vaz-calls-debate-video-games-buoyed-indiana-university-research http://www.thisisleicestershire.co.uk/Leicester-MP-urges-debate-harmful-effect-violent/story-14019174-detail/story.html 良い機会なのでレイプレイ事件にヴァズ議員がどのような役割を果たしたか回顧してはいかがでしょうか。2009年に発表したものを再掲載しました。 尚、本文で触れているCoroners and Justice Billは可決しました。現在イギリスでは「例え成人の身体的特徴を一部備えていても、全体として18歳未満と言う印象を与える想像上の未成年者が登場する視覚的描写物において、ポルノ的に性行為などが、顕著に不快感を与えるまたは気持ち悪いまたは猥褻な形をとった(grossly offensive, disgusting or otherwise of an obscene character)表現」は所持も違法です。 (法律の全文)http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2009/25/part/2/chapter/2 (分析)http://www.theregister.co.uk/2010/04/06/cartoon_law_live/ (抗議団体ホームページ)http://www.backlash-uk.org.uk/ しかし興味深いことにあまり施行されている話を聞かないのですよね。アメリカの1466A規定(連邦法刑法1466A規定「想像上未成年者の性行為の猥褻な視覚的描写」の違法化)と同じで「とりあえず気持ち悪い物を規制する法律を作るだけ作った。でもあまり真面目に運用すると面倒になるから、どうしても懲らしめたい人間で他に何も運用できる法律が無い時とか、偶に運用して見せしめ的に締め付けよう」という萎縮主旨の法律になっているのかもしれません。性犯罪者扱いされかねないような法律で人の表現を萎縮させるとは思想警察もいいところですが。 —- イギリスにおけるレイプレイ事件とその社会的背景について ― 兼光ダニエル真 ■ロングハースト殺人事件と過激ポルノ排除の気運 2003年3月に英国ブライトンで発生したジェーン・ロングハースト女性教師殺人事件において、容疑者グラハム・クーツが所持していた暴力的な性描写を含 むポルノ画像が犯罪を誘発したとして、亡きロングハーストの母、リズ・ロングハーストは性暴力を含むポルノを違法化する署名運動を開始しました。五万人ほ ど集まった段階でイギリス政府は過激なポルノであるとするホームページの閉鎖を行おうとしましたが、ホームページのサーバがアメリカなどにおかれており、 それらがアメリカでは表現の自由の範囲内と警察が認めているために閉鎖要請に協力することが出来ませんでした。この為、2005年の段階でブレア政権内務 省は既に英国内では出版・販売が禁止されている「過激ポルノ」を締め出すために、所持を違法化するのを模索し始めます。 あまりにも行過ぎた法案と言う反対意見もありましたが、右翼系タブロイド誌にも書き立てられ法案(Criminal Justice Bill of 2008)は2008年に可決され、2009年1月をもって施行されました。 http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/6237226.stm http://www.theregister.co.uk/2007/07/03/extreme_smut_possession_criminalised/ http://www.theregister.co.uk/2008/04/25/justice_bill_extreme_pron/Continue reading

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ユーロと戦後の清算

英エコノミストを読んでいたらポーランド外相がドイツにEUをもっと牽引しろと言い出すとは、本当に戦後は終わったと痛感した。現在のユーロの信用不安についてポーランド外相がドイツ政府にリーダーシップを発揮して欲しいと強く働きかけている記事が英エコノミストで紹介されていたのだ。 ユーロ信用問題の解決策としてよく持ち上がるのは: 1)ユーロを 解体する 2)ユーロ加盟国家を減らす、または第一級ユーロ圏と第二級ユーロ圏と分ける 3)ユーロ参加国の財政を立て直す資金援助(個別援助) 4)ユーロ参加国の国債信用問題に対処する為に銀行の援 助保険機構を強化 5)ユーロ国債で個別国債を吸収する 6)ユーロ国債への移行と共に連邦化を推進する 大体この六つだ。 どれか一つというのは少なく、複数の組み合わせが論じられているが、どの解決策にしてもドイツのユーロでの経済的地位がもっとも大きいので、ドイツの決断が重要になる。 ユーロ解体望んでいる人は意外と少なく、とりあえず何とか緩い連盟を続けてお互いの長所短所を上手く補えるような経済を望み、それを可能とするユーロを手離したくないのが大勢を占めるのだが、ユーロの信用不安はこの「緩さ」に起因している。 統一貨幣であるユーロを維持するには加盟国は金利政策を大よそまとめなければいけない。金利が極端にばらつくとそこに資金がそこに集中する。ギリシャにお金が集中したのはその所為だ。そもそも金利は政府が制御できる物ではない。貨幣供給量(市中で出回っているお金の総量)を変更したり、中央銀行から民間銀行への資金貸付の金利を操作したり、財政赤字・黒字の動向で左右される物だ。 つまりそもそもギリシャは金利を高く操作した わけではない。財政赤字が長らく続き、国家の累積債務がかさんでいるので金利(国籍の利回り)を高く設定しないと政府支出の為に準備する財源が確保できなくなったのだ。こう言った場合、金利をコントロールするにはどうすれ ばいいか?財政赤字を減らすか、貨幣供給量を弄るか、自国の貨幣の価値を下げるかのいずれかだ。 しかしギリシャはユーロに参加している ので、貨幣供給量を変えられない。自国貨幣の価値を下げられないのだ。もっとも下げたら下げたでさらに金利を上げないと資金が集まらないようにある可能性があるが、それはまた別の話。逆にユーロ圏内の他の国の銀行はギリシャの金利の高さが凄い旨味だ。同じユーロなのに自国の国債や銀行よりはるかによい利回りを提供してくれるのだから。だからギリシャが維持できない位のレベルの財政赤字に陥っても貸付を続けたのだ。 ドイツもフランスもこの状態がこのまま 続くと危険だとわかっていたが、信用がぐらつく事で得もしていた。ユーロの価値が下がると輸出しやすくなるのだ。さらにユーロの理念で は各国の平等性が強く謳われてる。列強時代まで続いた帝国主義で小国が抑圧されるのを防ぎたい理念が今尚尊ばれている。 この歴史の負の遺産がドイツとフランス に対して大きなブレーキとなっている。本来ならば税制が揺らぎ始めたらもっと率先して対処すべきだったが、金利・財政政策の統合を推し進めると大国の論 理を一方的に小国に押し付けるような結果になりかねない。だから内外から反発があったのだ。 しかし結局ユーロの恩恵を享受しつつ、それに参加するのに必要な金利・財政政策の管理をするという責任から大国も小国も甘えてしまった。経済が弱まった時は特に財政支出が増えるのが当たり前だ。これ自体はどうしょうもない。逆に「財源である税収が減ったから支出も減らせ」とやってしまうと負の緊縮連鎖が始めり、大恐慌のような事態へと繋がる。本来ならば国家というのは民間が揺らいだ時に支えるような縁の下の力持ちであり、普段はその存在が目立つ(金利が突出していない)のが望ましい。ところがユーロではギリシャ国債が異常に目立っており、それに様々な民間銀行が過剰に投資したのだ。そんな時にリーマンショック以降で世界中に信用危機が発生して、みんな過剰投資を引き揚げて、緊縮路線にへと走り出す。リーマンショックからギリシャ国債不安へと繋がるのに時間が掛かったのはその間にユーロの枠組みでギリシャの問題を解決できなかったからとも言えるだろう。 つまりユーロの土台は設立当初から不備 や不安があったが、色々な理由からその脆弱さは最近のユーロ信用不安まで顕著にならなかった。ポーランド外相の言っているのは、ならばその根幹から直そう ということだ。それを成し遂げるにはドイツにリーダーシップを発揮して欲しいと。 ポーランドはユーロ参加することで様々 な恩恵を享受した。最大の恩恵は貿易と資金確保が楽になったのだ。ポーランドのように長期間に渡って計画経済を続けてきた国にとって設備投資する 為の資金の確保がとても大変である。日本も設備投資の資金源を廻って紆余曲折があった。郵便貯金はその名残の一つである。しかしポーランドの場合、ユーロへの参加で資金確保がより容易になったのが幸いした。 しかしポーランドもユーロに参加する 上で財政政策の独立性に対して大きく制限が課せられた。リトアニアとの共同国家が崩壊した19世紀初頭から20世紀末まで、ポーランドは主権を奪われ たり、大きく制限された時期がほとんどであり、冷戦から抜け出た時に自由と独立を取り戻せたのを大変喜んだ。その歴史からポーランドでは独立性を守りたい気構えが今尚とても強い。 それでもなお、ポーランド外相ははっきり言ったのだ:「今ポーランドが恐れているのは、ドイツの行動よりも、ドイツが行動しないことだ」 具体的にはユーロ圏内の信用を取り返す為に大国であるドイツの主導でより統合された連邦制度を構築し、各国は国家アイデンティティ、文化、宗教、生活様式、公共倫理、所得税と法人税とVATを廻る自己決定権以外はこの連邦共同体の中で模索すべきだ、という発言へと繋がっている。ユーロ条約の改定を呼びかけているのだ。 「ドイツは独占せずに先導せよ。さすらばポーランドはドイツを支援する」 シコルスキー外相のこの文句を読んだ時、世界は確実に第二次世界大戦から大事な教訓を学び前進しようとしていると私は感じた。ユーロ問題が上手く解決される事を心より祈る。

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赤十字の疑心暗鬼

昨日、ツイッターで赤十字国際委員会がビデオゲームの中で描写されている「バーチャル国際人道法違反行為」などについて第31回赤十字・赤新月国際会議で議論が行われたのを紹介した。 これがその言及: http://www.icrc.org/eng/resources/documents/red-cross-crescent-movement/31st-international-conference/31-international-conference-daily-bulletin-2011-12-01.htm 『Video games and IHL: how should the Movement take action?』(ビデオゲームと国際人道法:国際赤十字・赤新月運動は行動を起こすべきか?)と題されている。 「国際赤十字・赤新月運動が意欲的に世界中で国際人道法を促進している一方で、バーチャルで国際人道法違反をしているかもしれない約6億人に上るゲーマーが存在します。ビデオゲームが個人に対して具体的にどのような影響を与えるかについて加熱した議論が交わされていますが、この度初めて国際赤十字・赤新月運動を構成する団体の間でビデオゲームの中で行われている国際人道法違反行為を廻って私達の役割と対処する責任について議論しました。主要議事進行とは別の場において会議の参加者に対して「我々は何をすべきか、そしてもっとも効率的な手段とはなにか」と問いました。様々な国の団体から経験談や意見を提供して頂きましたが、単純な答えが無いのは明白です。それでも尚、行動を取るべきであるという合意とモチベーションを全体的に共有していました。詳細についてはOXOXOかOXOXOまでご連絡下さい。」 (小生による全文翻訳。尚、OXOXOの部分は国際赤十字運動関係者のEmailアドレスでリンク先のサイトで確認できる。迷惑なEmailとかは自重するように。) 実は日本の団体も参加していて、ツイッターでもこのイベントを紹介している: @icrc_tok  赤十字国際委員会(ICRC)駐日事務所 2011.11.15 14:47 遊び感覚で敵を殺したり爆撃してポイントを稼ぐテレビゲーム→http://bit.ly/vgXUcY。バーチャルな世界で体験する戦闘にも、やはり戦時の”ルール”や”規制”は必要です。11月28日からの赤十字国際会議では「テレビゲームと人道法」に焦点を当てたイベントも開催します。 via Keitai Web http://twitter.com/#!/icrc_tok/status/136319361404256256 リンク先のビデオを見てもらえると大体の主旨はわかる。スポーツゲームで得点を稼ぐ感覚でFPSゲームの中で兵器を活用して殺人や傷害することで得点を稼ぐことについてルイ・アームストロングの「イッツ・ア・ワンダフォー・ワールド」をBGMに皮肉っているのである。 個人的にはこの皮肉はやや的外れであまりにも物事を単純化していると思うが、こう言った皮肉を論じるのは支援する。全く問題無い。問題は上記した赤十字国際委員会(ICRC)駐日事務所の方が発言してるような「規制の必要性」だ。 私の翻訳した第31回赤十字・赤新月国際会議のプログラム紹介では規制については触れていないが、この議論について逸早く注目したゲーム系ニュースポータルサイトのKotakuが素晴らしい分析をしている。簡単に要約すると以前からFPSゲームの中で無制限に「戦争犯罪行為」を行えるのを批判している人権団体がおり、これが今回の国際会議で問題定義する場所にしているというのだ。さらにKotakuは例え赤十字国際委員会の意見や決断に法律的拘束力が無いにしろ、何度もノーベル賞を受賞しており、世界でも稀に見る権威ある団体の主張は強大な影響力を持つであろうと危惧しているのだ。 Kotakuでも触れているが、以前からFPSゲームにおける「戦争犯罪行為」を批難している団体するスイスの人権団体が様々なFPSゲームの暴力描写について検証報告書を発表している。私はBBCの報告でこの事案を大分前に確認している。スイスの二つ人権団体、TRIALとPro Juventuteが20点ほどFPSゲームを現実の戦時法規などの法律に照らし合わせて検証した結果、「大よそルールはまったく、どのような行動に対しても懲罰されないに等しいのに非常に驚いた」としている。そもそもフィクションの世界にリアルの法基準を持ち込む事自体不毛なのは言うまでも無いが、この団体はゲームを検証対象と選んだ理由は「インターアクティブ」なメディアだからだと説明している。報告書では「[インターアクティブである]為、バーチャルと現実の体験の境界線は不明瞭となり、ゲームは現実の戦争場面の行動の実験場となる」と進言している。 これは物凄い論理の飛躍だ。視聴者がゲームで発生する出来事を様々な行動を取る事で左右させられる=>現実社会でも人間は自らの行動を制御することで様々な出来事を誘発させられる=>故に現実とゲームの境界線は不明瞭だ、と言う主張なのだろうか。頭が痛くなる。 私が「ギャラガで人質になった友軍機を撃ち落すのも戦争犯罪か」と皮肉ったのはこの所為だ。ユーザーが起きる事象を制御できるメディアにおいて好ましくない行動を取った場合、それは現実の社会と同じような制裁を受けるべきという論理にしか聞こえない。 より具体的にはTRIALとPro Juventuteはテロとの戦争が継続している現在においてテロ撲滅行動が国際法から逸脱した形で戦われるのを容認するような描写は現実社会に対して大変忌々しき問題であるとしているのだ。報告書の作成者はゲームの内容の暴力性が減らすのではなく、その行動自体が違法である事を啓蒙し欲しいとBBCでは紹介されているが、Kotakuによれば「この成長中の産業に対して法律や規制を設けるように政府に働きかける」のも一案としていると報告している。 私もこのような要望が簡単に通るとは思っていない。しかしゲームや表現の自由などを廻る法律について詳しくない人間が無茶な要望を打診したのはこれが初めてでもないし、これからも起きるだろう。『レイプレイ』が強姦を誘発させるとして女性権利推進の人権団体のEquality Nowが性犯罪描写をゲームから排除すべきだという要望を声高に叫んだのを読者の記憶に新しいだろう。 そもそも赤十字は表現の自由についてはあまり寛容な姿勢をとっていない。例えば2006年に赤十字のカナダ支部はFPSゲームの中に於ける戦争犯罪行為ではなく、赤十字を用いるのを自粛するように要請してる。現実の戦争地域において守護効果を発揮する価値の高い記号がゲームにおいて軽はずみに活用されている為にその効力を弱めているだと主張だ。カナダの場合は赤十字の取り扱いは法律で定められている。 実際赤十字の取り扱いは平時・戦時両方で国際法・各国の国内法で厳しく規定されているが、これをフィクションの世界に持ち込み出したのは私の知る限りごく最近だ。 実はこれはカナダに留まらず日本でも発生してる。Mixiアプリとして有名なサンシャイン牧場から赤十字の記号が消えたのも赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律という説がWikipediaで掲載されている。これは本当かどうかわからないが、実施現実社会での赤十字マークの乱用についてこんな報道がある:「赤十字マーク誤用しないで/「法律違反」と日赤」 現実社会においての赤十字の取り扱いを風化させてはならないと私も思う。戦時において赤十字マークを乱用した違法行為や違法スレスレの行為は戦史に興味を持つ身としては多少知っている。しかし現実の赤十字マークの取り扱いや、赤十字国際委員会が推進する国際人道法遵守を促進するのにフィクションでの取り扱いに言及するのは良しとしても、規制を持ち出すのはあまりにも恥かしい。 … Continue reading

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