AI翻訳について思うこと

翻訳を使っていない人間がそれについて言及するのはおこがましいと思ってちょっと好きな作品の翻訳をAIに任せたのだけど、出てきたのがぜんぜん使えなかった。意味が違う、面白みがないのは仕方ないとして、文章としては自然で整っているから返って危険なんですよ。正しいって人を騙しやすいから。

ここでいう正しいとは「文章が自然体で正しい文章に見える」のことです。中身は歪曲されていたら、欠落あったり、明らかな誤訳だったりしても普通に読める文章だと人を騙しやすいのです。

日本ではあまり話題になっていない気がするけど、機械翻訳・AI翻訳を作品として共有することについて北米ではかなり政治的な議論になっていて正直、地雷原の中を歩くようなものだと思ってる。もちろん翻訳家が新たな競争相手を嫌っているからこう書いていると思われても仕方ないのだけど……

夏の講演でも多少触れたけど、AI翻訳に限らず生成AIは人の雇用の機会を奪い、大企業による個人の創作ノウハウの搾取であるという議論が北米では最近持ち上がってる。ヨーロッパでも議論になっているがとかくアメリカでは激論が始まってる。ハリウッドでのストの一部になってる。

アメリカだと左派の人が雇用の消失・人的資源の無断転用を人権問題としてとらえ、大企業への反発ということも相まってかなり強い反対運動へと繋がってる側面がる。逆に一部の右翼は「機械翻訳の方がリベラリズムに染まっていない翻訳だから望ましい」「エリートの支配に対抗する道具」とも見てる。

左派でも右派でも考え方は色々あるので生成AIやAI翻訳についてまとまっているとは考えない方が良いけど、人権問題・企業搾取・テクノロジーの民主化・個人の尊厳の議論など密接に絡まっている側面がアメリカにはあると思う。

でも日本では「人手が足りないから」「面白いから」「翻訳の質を向上させるから」とスナック感覚でAI翻訳を持ち出す人が結構いるけど兼光は同意しにくい。他にどうしようもないからAI翻訳を使うとしてもそうすることで作品の商品価値を大きく損ねる要素の方が大きいと個人的には思っている。

実際、AI翻訳や機械翻訳がここまで台頭する前の段階でも「アニメ・マンガが好きだからロハでもいいので翻訳したい」という若いファンによる無断翻訳をバンバンやってた(そして今もやってる)。商業会社が売り上げが芳しくないからネットで流れている無断翻訳の可能性を持ち出したらもう大炎上……

なので翻訳AIはファンがやってきたことをAIがやっているだけという側面がなくもない。きちんとした翻訳として不特定多数に発信するなら最終的に人がチェックしなければならない。その手間を考えるとAI翻訳にはプラス面がかなり薄い。すくなくとも地雷原を歩むのを上回るメリットがあるとは思えない。

講演会で言ったけど、医者の診察受けるときにそのお医者さんが同時に4人の患者を診ていたらどう思うだろうか?患者としてはお医者さんにきちんと見て欲しいと思う。実際にはAIを織り込んで大量に処理する方が効率は良いかもしれない。でも患者としてそれは怖いと感じるわけです。

この先、人との対話で成り立っている物事にAIを絡めると面倒が多い。AI翻訳が道具ではなく手段となってしまうと二流・まがい物と思われかねない。AI翻訳であることを告知すれば安っぽい翻訳とユーザーに感じられ、翻訳にAIが携わっていないということを隠せば隠ぺい・欺瞞と囚われかねない。

翻訳家としては認めなくないけど、使い方によってはAI翻訳でもかなり勝負できるジャンルや使い方については自分なりの方向性が見えています。でもそれは生成AIの政治性を完全に度外視したうえでの議論であり、現実にはその簡単にできないと思ってる。

味が同じでも誰がどんな場所で調理したかで料理の値段が変わるように、翻訳もだれがどういう工程を経て翻訳したかと言うのが大きなポイントになると思ってる。それを考えずに気軽に海外向けでAI翻訳をを商業ベースで活用することは商品価値を下げる兼ねないのではないのだろかと思っています。

あと他にもAI翻訳などは後続を育てるのに大きな阻害要素になること。既にプロレベルの人はキャリアを武器にすること出来るけど、まだキャリアがない人にとってAI翻訳は技能を伸ばす機会を減らし、裾野を狭める。

一部の突出した才能を持った人間はこれからも翻訳に参入するでしょうけど、全体としてはキャリアを積み重ねるのにマイナスしかない。

本当に翻訳だけじゃなくて生成AIが関わる分野すべてにおいて人が技を磨く機会を得ること事態が大変になりかねない。

人によっては「下訳ならAIでも」と言う人もいますがわたしにとっては下訳を確認する作業が手間です。原語と訳文をいちいち読み返してチェック・訂正するのがものすごくストレスです。最初から全部やった方が速いです。また機械翻訳は個性豊かなキャラを作れないのが多きな問題です。全部が普通の文章になってしまう。それでは人に刺さりません。

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