Patreonアダルトコンテンツメーカーの怒り

Patreonとは米国のクリエイター支援プラットフォームで、月額や投稿毎に資金援助するのを取り持つクラウドファンディングサービスです。日本よりは海外で人気のサービスですが、海外在住の日本のアニメ・マンガ絵柄のクリエーターで活用している人は少なくありません。

元々は音楽家活動する人を支援するシステムとして始まったそうですが、その後は映画作家やイラストレーター、コスプレなど創作行為全体を支援する一大クリエータープラットフォームとなっています。Patreonがないと生活出来ない!という人も結構増えました。

Patreonではエロについては「ポルノはダメだけど、アダルトはOK」という曖昧な基準で知られていました。これは取引相手の銀行やカード業者などに対していい子であるように振る舞いつつ、クリエーターに対してはかなりの自由度を約束する「良いとこ取り」といえるかもしれません。

何をもってポルノとするかは見る人の主観によって非常に大きく影響されるので米国でも日本でも明確な基準は難しいです。一応Patreonとしては「R指定程度ならいいけど、AVは勘弁ね。でもアクセス制限すれば(18歳以上はみちゃダメというタグ付け)をすれば大目に見るよ」という姿勢でした。

Patreonはそもそも米国のソフトコア・ポルノの基準を意識しているといえるでしょう。「おヌードはOKだけど、接合部分の接写はダメ」「セックス描写全般はOKだけど、ハードなSM行為は勘弁してね」ーー表向きはこんな具合であったと私は理解しています。具体的には次のような描写が禁止となっています:

  • 一律禁止:実写・創作物問わず未成年者を性的に取り扱う表現
  • 禁止:強姦や性暴力を称賛するような描写

この他にもPatreon側が問題あると判断したコンテンツを規制する権限を明記していました。

かなり自由度がありますが、これでも日本の商業誌・同人誌に掲載され、米国の法律でも表現の自由の範疇に含まれるとされる作品(いわゆる合法的な表現)も禁止する基準です。日本のクリエーターからするとあまり自由とは言えない。しかし元々日本の商業誌や同人誌での自由を知らない人たちからすると「十分な自由」と見えたこともあって、海外在住の日本アニメ・マンガ絵柄に強く影響を受けた方々のあいだではPatreonは非常に人気の高いプラットフォームでした。

しかもPatreon側は性産業に携わる方々に対してクレジットカード業者が渋るのを是正したり、エロについても(米国的には)寛容な姿勢を打ち出してクリエーターらにとっても魅力があることを打ち出していました。外連味が強すぎる表現、政治的に不穏当な主張、危なっかしい題材を含まないコンテンツ、すなわち都会派のインテリにとっては許容できないコンテンツ以外の支援を強く主張したかったのだと私は解釈しています。ですから同性愛や女性自身に寄る性的表現には大らかであったと思っています。

さてこんな綱渡りをしていたPatreonのエロ・コンテツへの許容ですが、2017年10月17日に改訂されて大騒ぎとなりました。改訂において禁止事項がより具体的になったのです。一応以下に全文を掲載しますが、要約するとーー

  • 実写・創作物問わず次のような性暴力を称賛するような描写の禁止:
    未成年を性的に取り扱う表現を含む未成年の搾取描写
    強姦などの性暴力
    獣姦
  • 近親相姦、死姦、同意に基づく性交かどうか判断しにくいフェチ行為などのきわどい表現も禁止。

しかしながら近親相姦や強姦などは実際には発生する事象なので被害者が困難を乗り越えたのを奨励するような体験談までは排除しない、としています。

そしてここが大事なところですが、資金支援してくれる人たちへの報奨として次のようなものを提供するのを禁止:

  • 自慰行為、性行為を撮影
  • ウェブサイトを運営
  • 私的な映像コンテンツのストリーミング放送
  • などなど
We have zero tolerance when it comes to the glorification of sexual violence which includes bestiality, rape, and child exploitation (i.e., sexualized depiction of minors). This is true for illustrated, animated, or any other type of content. Patreon reserves the right to review and remove accounts that may violate this guideline. As a strong commitment to child safety, we will work with law enforcement whenever we come across child exploitation.
We also do not allow other fringe sexual fetish content, such as incest, necrophilia, or fetish content that is hard to distinguish from non-consensual sex.
We understand that some topics on this list such as incest or rape are a little bit more complicated because these situations are, unfortunately, part of real life. As a result, when reviewing this type of content, the Trust and Safety team will take into consideration context including personal, historical or educational narrative. For example, survivor stories or fiction such as Game of Thrones or Lolita are allowed on Patreon.
Lastly, you cannot sell pornographic material or arrange sexual service(s) as a reward for your patrons. We define pornographic material as real people engaging in sexual acts such as masturbation or sexual intercourse on camera. You can’t use Patreon to raise funds in order to produce pornographic material such as maintaining a website, funding the production of movies, or providing a private webcam session.

https://www.patreon.com/guidelines

ポルノコンテンツの排除をより強く押し出したのですが、欧米では大騒ぎです。

Patreon moves to restrict adult content on its crowdfunding site
Porn makers challenge Patreon ban on pornography crowdfunding
Porn-makers challenge Patreon’s crowdfunding ban
The real consequences of Patreon’s adult content crackdown

非常に簡単に要約すると「これまでアダルトコンテンツについてはなるべく支援するって言っていたのに、内容規制だけじゃなくてファンとの対話を規制するとはどういうことだ!」という怒りが特に実写系の人たちのあいだで爆発しています。比較的穏当なコンテンツになりがちな実写系エロを提供しているクリエーターからすれば援助してくれるファンへのお礼としてエロいかっこうしてポーズとったり、性行為を撮影したり、描写物の作成、ウェブサイトを運営したり、私的な映像コンテンツのストリーミング放送をおこなったりすることの禁止は、これまでのやり取りを真っ向から否定する、もの凄い大ダメージになるのです。

どこまで本当かどうかわかりませんが、「Patreonがなかったら私はホームレスになっている!」という声も噴き出しており、巨大なプラットフォームとして大きく頼りになっている存在が突然、方向転換したことに対してかなりの騒動になっている模様です。

本当はより詳しく検証したいのですが、今回はここまでとさせてください。

いくら日本ではあまり浸透していないとはいえ、欧米の一大プラットフォームにおいて日本では話題になっていないのが不思議だったのでちょっと言及させて頂きました。

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